世界の「金儲け」あれこれ
                                                 
2006年9月22日
株式会社小島衣料  小島 正憲

 「金儲けは悪いことですか」。 半年ほど前になるが、村上ファンドの村上世彰氏が、テレビの記者会見でその違法性を詰問されて、このように開き直っていた。それを見ていた私は、≪果たして「金儲け」に、「善い金儲け」があるのだろうか。もし「金儲け」を、「善悪」で判別ができるのであれば、その基準はなになのか≫と、疑問に思った。今回は、私の体験してきた世界の実業家たちの「金儲け」を例として、その解析を試みてみたい。



1.法律無視の金儲け。→ 法律面からみれば悪・道徳面からみても悪。

@ミャンマー

 ヤンゴン市内で、70歳を過ぎようかという女性が、メーン道路に面した立派な5階建ての大きなマンションを 見上げながら、私にため息まじりに話してくれた。
 「このマンションは私のものだった。ある日、一人の男が来てこれを譲ってくれと言った。突然だったのと、あまりにも安い価格だったので、断った。すると数ヵ月後、軍関係者が来て、道路を拡張するのでこの物件を没収するという。私は泣く泣く郊外に引越しをした。その後、数年経っても、道路は拡張されなかった。そしてこのマンションは、いつのまにか最初に来たあの男のものになっていた」その男は、その後、ミャンマーでも有数の実業家にのし上がっていった。

A韓国

 ソウルの私の工場で、私のスポンサーであった徐氏が笑って話してくれた。
 「朴正煕大統領は、ソウルから釜山の高速道路を早期に建設したかった。しかし予算がまったく足りず、どの業者も応札しなかった。そのようなとき、名もない土建業者がそれを半値で引き受けた。朴大統領はたいへん喜び、彼に任せた。突貫工事が進み、1年後、見事にそれが完成した。朴大統領のその土建業者に対する信任は絶大なものとなり、その後の公共事業の多くが彼に任されるようになった。しかし高速道路が完成して1年後、路面は穴ぼこだらけとなり、毎年大規模な修理を繰り返さねばならなくなった。それは当初の予算をはるかに超すものだったが、彼にその責任は追及されなかった。その後、彼は韓国有数の大財閥となった」
 徐氏は、李承晩政権時代の財務局長を務め、その後下野し、韓一銀行頭取、大韓証券取引所初代理事長、韓国火薬グループ顧問などを歴任し、韓国の政界や財界に精通した人物である。

2.法律を悪用した金儲け → 法律面からみれば小悪、道徳面からみても悪。

@中国

・土地ころがし
 中国では今、「銭が地中からざくざくと掘り出されている」と、表現するのがふさわしいくらい、土地がらみで大金持ちが続出している。政府関係者や目ざとい商売人は、農民から土地をただ同然の値段で買い上げ、それを工業用地とし、「50年間の土地所有権」を転売して大儲けしている。しかもその売買契約書には、いずれも「2年以内に開発すること」という条件がつけてある。そして2年後、購入者が契約書通りに開発していなければそれを没収し、他者に再販売してさらに儲ける。それでも儲けが少ないと見るや、商業用地や住宅用地に用途変更をして、10数倍に化けさせる。こうしているうちに、土地の値段は最初のすくなくとも100倍につりあがる。
 これを現代の錬金術といわずしてなにといえばよいのか。このような状況を不動産バブルと危惧する人たちもいるが、中国への進出企業がまだまだ多く、北京オリンピックや上海万博がひかえているので、このブームは当分続くものと思われる。

・株のインサイダー取引

 中国で証券取引所が開設されてから、すでに10年以上が過ぎようとしているが、依然として取引内容は透明化せず、その様相は伏魔殿と評されている。かつて私の合弁相手の会社が上海証券取引所に上場した。私はそのときの内幕を詳しく知っているが、そこには資本主義世界の上場では想像できないようなトリックが隠されていたし、財務内容なども粉飾そのものであった。その後、上場された他の会社も大同小異であった。これらの会社は財務状況がさらに悪化しているにもかかわらず、株は堂々と取引されている。公開さていれる情報などはまったくあてにならない。だからほとんどの一般投資家は、それらのことを承知の上で購入して、短期で売買することに専念している。もちろんインサイダー情報についての規制も甘いため、これを利用して大儲けし、一夜にして大富豪になる人もいる。

・社会保険金の流用

 公金もたやすく横領される。最近では上海で400億円ほどの社会保険の積立金が、上海市の一局長の一存で勝手に民間企業に貸し出された。企業や労働者から強制的に徴収したお金が、一瞬のうちに消えてしまったのである。これは氷山の一角であり、全国でこのような事態が数多く起きているにちがいない。このように簡単に流用が可能だということは、やろうと思えばだれにでもやれるからである。こうしたところから、企業にジャブジャブと金が流れていき、借りた経営者はそれをどんどん投資して大金持ちに変身していく。

・再生企業オークション

 中国には、「金を貸すバカ、返すバカ」という文句が流行っている。それほど中国の経営者は、借金することに抵抗がない。無借金経営などは無能な経営者のすることだと思っている。企業の財務状況が危機的であっても、経営者は余裕しゃくしゃくとしている。なぜなら最悪の場合でも、借金棒引きの恩恵を受けられることをよく知っているからである。それにはいろいろな方法があり、一言では語れないが、企業を倒産に至らせた無能な経営者でも、無罪放免される仕組みができあがっている。はなはだしい場合には、経営者の椅子に居座り続けることも可能である。最近、中国では企業再生会社が繁盛している。銀行などから倒産会社をただ同然で譲り受け、不良債権を思い切って整理し、優良資産のみを化粧直しして、オークションで販売しているのである。すでに中国ではそのような企業リサイクルシステムが機能しており、無責任経営者が無謀経営に暴走することが可能となっており、そしてその中から一攫千金の大儲けができる仕組みもでき上がっている。

Aヨルダン

 首都アンマンから、車で2時間ほど走った砂漠の中に突然、一大工業団地が出現する。そこには2〜3千人規模の工場が林立しており、その数は50社を超えていた。私はその中でもひときわ立派な華僑の工場に縫製技術指導に入った。その工業団地の管理事務所の応接室で、この工業団地のオーナーで若き大富豪のチャーリー・チャン氏(36歳)に会い、彼のサクセスストーリーを聞くことができた。彼は中国の江蘇省出身で、5年前まで米国の大学に留学しており、学生だったという。そのときヨルダンから来ていた級友から、「米国がヨルダンを中東地域の友好国として成立させるために、特別優遇策を決定した。それはメイドインヨルダンの製品については、輸入関税を免税とするという内容である」との情報を聞きつけた。チャーリー氏はただちにヨルダンに飛び、政府と話をつけ、砂漠を無料で譲り受けた。さらにその足で香港へ飛び資金を集め、工業団地のインフラを整備し売り出した。その団地はすぐさま完売した。そこには華僑系の繊維関連の企業が数多く進出した。なぜならもともとヨルダンには繊維クォーターがなく、さらに関税ゼロの特典が付け加わったため、他国に比べて圧倒的な対米輸出競争力を持ったからである。その結果、またたくまにチャーリー氏は大富豪となったのである。世間では、彼のような人間を新華僑と呼ぶ。

Bサイパン

 日本ではサイパンというとリゾート地という思いしか浮かばないが、その中心街に香港華僑の巨大縫製工場がある。私はその縫製工場と共同事業を開始するため、そこを訪れた。香港華僑の陳氏は、その工場をサイパンの現地夫人と力を合わせて成功させ、短期間で香港有数の大富豪にのしあがっていた。当時、サイパンは米国の信託統治領であり、国内扱いであったため繊維クォーターが適用されず、対米輸出で圧倒的な競争力を持っており、しかも大陸中国からの労働力輸入が安易で、その工場では出稼ぎ大陸中国人がきわめて安い賃金で雇用することが可能であったからである。その特典に着目した陳氏は、ただちにサイパンに大型工場を建設し、中国各地から3千人ほどの労働者を集め、操業開始をした。そしてまたたくまに米国の軽衣料市場を席巻し、巨額の利益を上げることに成功したのである。

Cユダヤ商人

 私はミャンマーで対米向け輸出に取り組んでいたとき、ユダヤ商人にだまされて、すんでのところで大損をするところだった。私はヤンゴン市内で600人余りの縫製工場を稼動させ、米国アパレルからの発注を受け、生産に励んでいた。私は日本流の品質管理を貫き、指定の仕様書を厳守して製品を縫製しており、製品のできばえには自信を持っていた。それでも出荷前の最終検品には、米国からインスペクターとして黒人女性が派遣されてきた。ところが彼女の検査は常軌を逸しており、仕様書を無視して勝手な指示を乱発し、修理を強制した。それは難癖という類のものだったが、仕方なく私はそれらに従った。出荷間際になって、彼女は全品の再修理を命じた。それはとても時間的に不可能なことだった。とうとう私は我慢できなくなって彼女と喧嘩し工場から追い出した。その結果、製品は彼女の検査合格サインなしで出荷された。私は日本品質に自信を持っていたし、仕様書に忠実に縫製してあるので問題はないと思っていた。ところが数週間後、銀行からL/Cアンペイドの連絡があり、米国からはコンテナ受け取り拒否・シップバックの連絡が入った。理由はインスペクターの検査合格サインがないというものであった。私は総額1億円におよぶ損害に動転した。ただちに弁護士に相談したが、それは契約違反であるから、小島さんの負けであるという。私はしばらく立ち上がれなかったが気を取り直して、この損害を取り戻すために次のビジネスに挑戦した。
 幸いにもこのコンテナはシップバックされず、数ヵ月後、代金が振り込まれてきた。この米国アパレルは同時に4ヶ国の工場に同様の仕打ちをしておき、それらを天秤にかけ、そのうち品質がよく納期がクリヤーされたものから陸揚げし、最後のものをキャンセルするという商法をとっていたのである。この商法の被害にあったのはフィリピンの工場で、かろうじてわが社は逃げ切れたのであった。この体験を通じて、私はユダヤ商人との付き合い方を学んだし、彼らが大富豪になる方法も、身をもって勉強することができた。

3.法律を活用した金儲け → 法律面からみれば善、しかし道徳面からみれば悪。

@便乗値上げ

 20年以上前の話であるが、オイルショックのとき、私は岐阜県中小企業家同友会の常任理事を務めていた。そのとき巷では、狂乱物価の嵐が吹き荒れ、商人の売り惜しみ買い占めなどで、トイレットペーパーなどまで店頭からなくなるという異常事態が起きていた。そのような中で、中同協から各地同友会に、≪「商売道徳を守れ、便乗値上げをするな」という決議を行い、それを全会員に徹底するように≫という指示があった。それを受けて常任理事会では、決議をするべくただちに協議をした。ところが常任理事の中の一人がこれに強く反対したので、夜を徹して話し合ったのだが、結局決議できなかった。彼は、「このようなときでなければ、中小零細企業は儲け切れない。これは千載一遇のチャンスである。2倍でも3倍でも、値上げして儲けるべきだ。商売に道徳は不要だ」と言い放ち、一歩も譲らなかった。そのとき、彼がそれを自分の商売で実行していたかどうかはさだかではないが、その後現在にいたるまで、彼の企業は隆々と繁栄している。反面、商売道徳を守り、極力値上げを避けた私の企業は苦境に立たされ、倒産寸前一歩手前まで行ってしまった。

Aタックスヘイブン

 これも20数年前の話であるが、あるとき同友会の勉強会の席上で、滋賀県から来た講師が私に向かって、「だからあなたの企業は、儲からないのだ。あなたは馬鹿だ。香港に拠点を移し節税をはかるべきだ」と、大声で面罵した。そのとき彼の企業は香港に拠点を移し、タックスヘイブンを利用して大儲けをしていた。当時、まだその行為は違法ではなったが、私は彼の進言を毅然として断った。そして、「私は国を売ってまで、金儲けをするつもりはない。日本の国に税金を払っていないあなたは、国賊だ」と反論した。今から思えば、私も青かった。
 それから10数年後、私は日本国内では生きて行けずに、逃げるようにして先輩を頼って中国に進出した。そして中国の安い人件費を利用して、儲けを得ることに成功した。さらに運良く日中双方の為替変動が追い風となり、大儲けすることもできた。そしてその儲けを日本国内に持ち帰ったとき、はからずも「みなし外国税額控除」の恩恵を受けることになり、大幅な節税をすることに成功した。これは違法な脱税ではないが、タックスヘイブンと比べてみた場合、日本の国に税金を払っていないという点では大きな違いはない。私は結果的に滋賀県のあの彼と同じ穴のムジナになったのである。

B特許・知的所有権

 私は常に考えている。そしてアイディアを生み続け、それを実践し市場に出し続けている。しかしながら不幸なことに、ファッション製品というものには、商標権はあっても知的所有権や特許権が設定できない。したがって私が考えたものを発表すれば、翌日、他の誰かがそれを模倣する。そしてそのものまねの2番手の企業が、安いコストで大量販売し大儲けする。残念ながらそのような業界なのである。私は特許権や知的所有権で守られている業界の人と比べて、さぼっているわけではない。いつも負けないぐらい考えている。たまたま運悪くこの業界にいるので、それが金儲けと結びつかないだけである。
 特許権を活用したビジネスで大儲けした現代企業家の代表選手は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏である。たしかに彼は、自分の創作したものを独占し他人には有料で販売し、一代で世界一の大富豪に成り上がった。しかし同じようにOSを開発したリナックスのリーナス・トーバルズ氏は、それを特許権などで独占せず、無料で一般に公開した。その結果、彼は金儲けはできなかったし大富豪にもなれなかったが、全世界の人民に貢献した。ビル・ゲイツ氏とリーナス・トーバルズ氏を道徳面から比較した場合、前者は悪で後者は善である。人間としては、ビル・ゲイツ氏よりリーナス・トーバルズ氏の方が、はるかに尊崇の対象となる。自分の考えたものを独占し、他人を駆逐し大儲けするという方法は、法律的には許されても道徳的には推奨されるものではない。 リーナス・トーバルズ氏のごとくに特許など取らずに、考え出したものをすべての人に平等に公開し、その上で大儲けできるビジネスモデルを作り出したのならば、それは商売人としても尊崇に値する。しかしながら特許権や知的所有権などの法律を振り回し、わざわざ他人を駆逐して利益を独り占めして金儲けした人間については、それを善として許容するべきではない。それは道徳的には悪い金儲けである。

結論 : 「金儲けは悪いことである」

 すべからく「金儲け」は、他人の利益を侵害して成り立つものであるから、法律面では善として是認されたとしても、道徳面では悪として認識される。だから「金儲け」は悪であり、それにたずさわる経営者は、自らを性悪な人間として自覚すべきである。清く美しく、善なる「金儲け」など、この世の中にはないのである。
 昨今の世の中では、経営者が社会の表舞台に登場することが多い。「金儲けは悪いことですか」とうそぶく連中まで闊歩するようになっている。しょせん経営者は性悪な人間なのだから、そのようなことは慎むべきである。ましてや世間は、「金儲け」の上手な経営者を尊崇の対象にしてはならない。思えば江戸時代の士農工商という制度はよくできていた。あのように商売人は最下位に属せばよいのである。
 性悪な経営者だからこそ、罪を償う意味でも、よい経営者をめざすように努力すべきである。つまりよい経営者を目指すことの前提は、自分が性悪な経営者であるということの自覚である。その自覚がなければ、それは空念仏で終わる。だから最近私は、あらゆるところで、経営者:小島正憲の下記のような心からの反省を公言するよう
にしている。                                                                    
 ≪私の反省≫
 @社長(資本家)として、社員(労働者)のピンハネ(搾取)をして生きてきたこと。
 A中国に企業進出して、安い労働力を利用(搾取・収奪)して、金を儲けてきたこと。
 Bわが社だけが金を儲けて生き残り、多くの同業他社を廃業や倒産に追い込んだこと。
 C自分の先輩たちが中国に多大な損害を与えたのに、私はその償いをしていないこと。
 D自分は暖衣飽食の生活をして、次世代に1000兆円の借金などを残し、尻拭いすることなく死んでいくこと。

                                                         以上