やがて中国人が観光で世界を制す

中国人タイ観光ツアー同行記
                                                 
2007年6月1日
小島 正憲
 この数カ月、中国は株高で沸いている。中国の一般庶民もこのバブル景気に便乗して、かなり臨時収入を増やしており、彼らの中には5月連休を利用して、海外旅行に出かける人も多かった。ことにタイにはビザが簡単にとれる観光地であるということもあり、中国人観光客が殺到し大混雑だったという。

 私は20年ほど前に、バンコクの縫製工場に技術指導者として1年間ほど滞在していたことがある。その懐かしいバンコクに、私は昨年、中国合弁公司の幹部の慰安のため、中国人観光ツアーに加わって行ってきた。そして20年ぶりのバンコクが、中国人観光客にすっかり占領されてしまっているのを見てたいへん驚いた。さらにそのとき、やがて世界の観光地も、このように中国人に制覇されていくのであろうと思った。

 私は上海の観光公司の広告の中から、格安なバンコク観光ツアーを選び、それに男性3人で申し込んだ。当日午後9時ごろ、空港に集合してみると、そのツアーには男性が20人と女性が10人の合計30人、年齢的には20代から50代までの人たちが参加していた。私たちと同様に、公司から慰安旅行として参加している人が多かった。空港内の団体カウンター周辺には同様のバンコク行きの団体が10組以上あり、ごったがえしていた。しかもそこでツアーガイドがバンコクの歓楽地のパンフを渡し、「オプションでどこに遊びに行くかを選んでください」と言ったので、周辺が蜂の巣をつついたような状態になった。ほとんどの人がいっせいに、ショーの内容や値段を大声で聞き返したからである。それでもその大騒ぎは、1時間ほどで決着がついたので、飛行機に無事に搭乗することができ、私たちは深夜近くに上海空港を飛び立った。

 早朝、飛行機はバンコクに着き、乗客はさっそく数台のバスに団体ごとに分乗して王宮観光に向った。そこでは中国人の多さに驚いた。観光客の半数以上が中国人であり、彼らがあたりかまわず大声で騒ぐのに閉口した。やがて昼食となり、大きな中華料理店に入った。店内には10人用ぐらいの丸テーブルが、20台ほど並んでいた。すでにテーブルの上には、4〜5品の料理と大きなボールにご飯が山盛り用意されていた。一行はテーブルに着くや否や、それらをあっという間にかきこみ、楊枝をくわえて席を立っていった。すると店員たちは、すぐさま食器を片付け、次の団体の食事の用意をした。うろうろしていると食いはぐれるような始末だった。旅行中、毎日3食すべてがこの調子であり、料理もほとんど同じで、確かに格安料金のツアーという感じだった。

 ツアーには1日目から買い物タイムが設定されており、ワニ革やタイシルク、宝石などの専門店に、バスでつぎつぎと案内された。結構大きな店が多く、中は中国人観光客でごったがえしていた。日本人も韓国人も西洋人もほとんどいなかった。もちろん店員は中国語で上手に応対していたし、値切り上手の中国人は楽しそうに買い物をしていた。

 夕方になって、かつて私も乗ったことがあるメナム川クルーズを楽しむことになった。5時に乗船したのだが、まだ暗くなかったので情緒がなかった。それでもすぐにバイキング形式の食事がはじまり、バンドや歌手が入ってきて結構にぎやかになった。しかしやはり私には、昔の落ち着いた雰囲気のクルーズが懐かしかった。そんな感慨にふけっていると、船は1時間半ほどで元の船着場へもどった。そのころようやく暗くなってきた。私たちが降りようとすると、乗員がすばやくテーブルクロスをかけかえ、立派な食器を並べはじめた。7時から、日本人や西洋人相手のメナム川クルーズを行うので、模様替えをしているのだという。それは本格的なフルコース料理の準備だった。テーブルの上にはろうそくが灯され、それまでとはまったく違う大人の雰囲気が用意された。これからが本当のメナム川クルーズだったのだ。この船会社は、時間差で2回のクルーズを行い、上手に儲けている様子だった。

 それから夜の観光に入った。まず一行は「人妖ショー」を見に行くという。私はそんなショーを見たことも聞いたこともなかったので、おとなしく一行の後についていった。そこは中庭つきの立派な会館であり、その中に入ると、均整の取れた美しい体の綺麗な女性がたくさん出てきた。私がそれに見とれていると、同行した公司の幹部が、そっと「この人たちは性転換し、女性になった男性たちですよ」と教えてくれた。私は目を見開いて、彼女?たちを見直したが、どう見ても女性以上に綺麗な男性?ばかりであった。そしてまさに「人が妖しい」というネーミングがぴったりだと思い、妙に感心し観賞し続けた。その会館には500人ほどの観客を収容できる劇場があり、夜間のみ1日3回のショーを行っていた。そこは中国人で満杯だった。これは20年前にはなかったものだ。

 翌日、パタヤビーチに行った。私はここにもかつて来たことがあった。広い浜辺はすっかり中国人で占領されており、中国語が飛び交っていた。水中漫遊からバナナボート、ジェットスキーなどすべての遊びがそろっており、一行は浜辺での娯楽を陽が沈むころまで楽しんだ。

 その夜は沖合いに泊まっている船へ、ショーを見に行くという予定になっていたので、一行はホテルでの着替えもそこそこに、船着き場へ急いだ。そこはすでに中国人観光客の乗降でごったがえしており、暗さも手伝って、迷子になるほどだった。ざっと2〜3千人はいただろう。船の中では、これまた「人妖」のショーが繰り広げられていた。しかし昨日と違い庶民的な雰囲気で、最後には観光客全員参加の無礼講乱舞となった。300人ほどの観光客が、「人妖」といっしょになって、ところ狭しと踊り狂い、どんちゃん騒ぎとなったので、私は船がひっくり返らないかと心配した。そんな中で、ツアーガイドが私に、彼女?たちの人工乳房にさわれと誘ってきた。他の中国人男性を見てみると、ほとんどがニコニコ笑いながら、たわわな人工乳房に触れその感覚を楽しみ、写真撮影をしていた。私は最後まで抵抗していたが、とうとう無理やりつかまされるハメとなった。それは軟式のテニスボールのようだった。

 ふたたび陸にもどったら、一行は次のショーを見に行くという。今度は本当の女性のヌードショーだという。私はかなり疲れていたのでホテルに戻りたかったが、1人だけ別行動を取るわけにはいかなかったので、しかたなくついていった。それが終わると、一行はさらに男性ヌードショーを見に行くという。私はさすがに疲れはてたので、ロビーで寝ていることにした。しばらくすると、場内から和太鼓のような音が聞こえてきた。なにだろう思って中に入ってみると、舞台の上では全裸の男性が5人ほど、勃起した自分の性器で太鼓をたたいていた。そしてそのうち、彼らが中国人の若い女性観光客を指して手招きした。すると数人の20代ぐらいの中国人女性が平気で舞台に上がった。そして彼女たちは彼らのてほどきで、彼らの長くて大きな性器をむんずとつかみ、おもしろそうに太鼓をたたいた。私はびっくり仰天して眠気がふっとんだ。彼女たちの顔をよく見てみると、隣のバスの中国人女性観光客だった。

 とにかく私は、ショーのはしごで、へとへとになってホテルへ帰った。ホテルにつくと、現地のツアーガイドが、「マッサージに行く人は30分後にロビーに集合してください」と大声で呼びかけた。11時を回っていたので、私は寝た。3時ごろになると、廊下が妙に騒々しく、その音で目が覚めた。翌朝聞いてみると、私と私の公司の幹部を除く男性全員が、マッサージに行き、3時ごろにもどってきたのだという。

 翌日のバスの中では、マッサージに行った男性の自慢話で花が咲き、女性陣もけらけら笑いながら、その話の渦の中に入っていた。そしてその日も一行は、昼は象のショーやワニ園や植物園を目一杯楽しんで、夜は前日と同じく元気にまたショーのはしごを続け、さらに昨晩と同様の男性陣メンバーが深夜のスケジュールもこなした。最終日はお土産の買い物に多くの時間が割かれており、タイ産の蛇の薬の店や海燕の巣の展示即売館、地元のお菓子や陶器の店などをぞろぞろと見て回った。このようにして、あっという間に4泊5日のバンコク観光ツアーは終わった。この間で、ほとんど日本人とは出会わなかった。

 日本人男性の買春ツアーは悪名高いが、ことほど左様に中国人男性たちもその例外ではない。むしろ人口において男性が日本の10倍いるのだから、買春ツアーも10倍の規模で起こる可能性があり、もっと始末が悪くなるかもしれない。かつて日本人が中国で集団買春事件(2003年9月:深セン)を引き起こしたとき、中国のネット上では、「数千人の中国男性を組織して、日本に入って日本の娼婦を犯そう!」、「日本鬼子が入侵した!われわれも反撃せよ」という呼びかけが氾濫した。しかしそのときは、中国人男性の良識によりその呼びかけは空振りに終わった。しかし今後同様の事が繰り返された場合、中国人男性は十分に経済力を蓄えてきているので、過剰な反日意識が再度触発され、事態をより複雑にさせる可能性がある。日本人男性はそのような行為を厳に慎むべきである。

 昨今、日本の観光業界は、中国からの観光客の獲得に躍起になっている。中国の経済水準が上がり、中国人の懐が豊かになるに連れて、観光客は急速に増えるにちがいない。しかし儲かるからといって、喜んでばかりはいられない。中国人観光客が大挙して日本に到来した場合、そこにはバンコク同様に従来の日本の観光地とは別物が出現する可能性が高いからである。観光地は儲かるだろうが、そこには喧騒とゴミそして異文化の混入という事態が出現する。昨年オープンした香港ディズニーランドでは、大陸中国人のマナーの悪さに閉口したという。日本でもそのような困惑が再現されるであろう。しかしそんな事情には無関係に、やがて中国人観光ツアーが世界を席捲するであろう。