ニュースから読み抜く中国の人手不足
                                                 
2007年9月1日
小島 正憲
 中国の人手不足は、日増しに深刻になってきている。その実態は、日々のニュースからも、簡単に読み抜くことができる。今回は、最近の4か月間に配信されてきた上海の時事速報の中から、それを抽出して以下に私のコメント付きで紹介する。  ※ ◎は配信されてきた本文。 →は私のコメント。

1.農村余剰労働力は5000万人=2年後にも供給不足=社会科学院:5/12北京時事
中国社会科学院は、労働力の過剰から不足へのターニングポイントが2年後にも訪れると予測する報告を発表した。1億〜1億5000万人と推定されていた40歳以下の農村余剰労働力が、実際には5212万人にとどまることを主な原因にあげている。社会科学院の人口労働経済研究所がまとめた報告は、「広東省など沿海部で始まった労働者不足の現象は次第に中国地域へさらには内陸部へも広がりつつある」と指摘した。出稼ぎ農民など豊富で安価な労働力が中国経済の発展を支えてきたが、報告は、供給不足が進むにつれ全体的な賃金水準が上昇するとの見通しを示した。
従来からこの社会科学院は、労働力不足についての情報を発信していたが、今回ほど明確な数字をあげてはいなかった。この情報の中に出てくる5212万人という数字の根拠は定かではないが、これほど具体的な数字を上げてきたのだから、かなり信頼性の高い調査の結果ではないかと思う
2.呉江アパレル企業、縫製労働者2万人が不足=きつい仕事と敬遠
                                  ―江蘇省:5/23蘇州新聞網
蘇州新聞網が、江蘇省呉江市当局の統計として伝えたところによると、呉江市ある200余りのアパレル企業のほとんどが縫製労働者の確保に悩んでいる。現時点で2万人が不足しているという。その背景には、求人職種が数多くあり、勤務が楽で、特段の技能を必要としない職業に人気が集まっていることがあるという。他の職種に比べてきつい縫製労働は敬遠され、2年以上の熟練工の月給が2500元を超えることもあまり評価されないという。
ここでは、縫製労働者の待遇が槍玉に上がり、技術が必要な割には賃金がやすいので、企業が求人難に陥っていると報じられている。そして勤務が楽な職業に人気が集まっていると書かれている。しかし上海市内では小売店や飲食店の窓に、「従業員急募」の張り紙が目に付く。北京やその他の地方都市でも、店頭での求人張り紙はけっこう多い。現実には、楽な職業でも人手不足状態が恒常化しつつあるのである。
3.南京で「民工」求人難に=春節から月額150元上昇=江蘇省:6/4 揚子江晩報
揚子江晩報によると、南京市では最近農村部や他省から出稼ぎ労働者「民工」の求職が相対的に少なくなり、賃金が上がっている。求人の年間ピークの1つである春節に比べ、月給は平均で150元程度アップしているという。地元の職業あっせん業者は、「ここ5年来なかったこと」と指摘している。求人難の背景には、南京で就業を希望する民工の数が減る一方で、求職が増えていることがあるという。
人手不足は沿岸部の問題であるかのような情報が多いが、実際には内陸部にもその現象が現れてきており、賃金が確実にアップしてきている。
4.洗濯サービスで従業員引き止めに成功=東莞の物流会社   
                                   −広東省:8/3羊城晩報
羊城晩報は、広東省東莞市のある物流会社が、無料の洗濯サービスを提供するというユニークな方法で従業員の流出を大幅に減らすことに成功したと報じた。同市厚街鎮のこの会社の幹部によると、洗濯サービスを始めたのは今春。疲れた従業員らが汚れた衣服を洗わずに放置し、従業員宿舎に異臭が漂っていたことへの対策だった。ところが、これが従業員の流出を減らすという思わぬ「副作用」をもたらしたのだ。
200人の従業員を雇用する同社は、このサービスのために新たに2人の洗濯担当者を採用し、毎日早朝から夕方まで2台の洗濯機をフル稼働するようになった。これによって、宿舎の衛生状態が改善されただけでなく、従業員に十分な休息をとってもらえるようにもなったという。従業員の王さんは「仕事が終わったら、疲れて洗濯など面倒に感じてしまっていた。洗濯サービスなど小さなことかもしれないが、われわれの大きな問題を解決してくれた。このサービスがあるだけで、この会社で何年も働きたいと思うようになった」と話している。
これは思わず吹き出したくなるような記事であるが、こんな洗濯サービスをしなければ人員が定着しないという哀れな事態が出現しているのである。企業にとってみれば洗濯サービスなどはたやすいことなので、おそらくこの地方の企業は、全部、洗濯サービスを始めるだろう。その結果、企業は労働者に次なるサービスを提供しなければ他社と差別化できなくなり、人員の流出を食い止めることはできないだろう。今や、中国では、経営者が営業や生産という分野で努力をするのではなく、労務管理という分野にかなりの精力を注がねばならなくなったということである。
5.レンガ工場の65%が無許可=虐待事件で69人起訴−山西省:8/13 北京時事
山西省の闇レンガ工場で、誘拐された労働者や未成年者が虐待された事件を受け、中国政府の調査チームは、13日、記者会見し、同省内のレンガ工場4861か所のうち、65.5%に当たる3186か所が無許可経営で、8万1000人が不法雇用されていたと発表した。闇レンガ工場をめぐる27件の事件に関与した69人が起訴された。一方、政府は事件発覚後の7月以降、レンガ工場や採炭場、小規模鉱山、作業場を重点的に調査。7月末までに全体の24%が無許可経営で処分されたほか、53%で労働者と契約を交わしていなかった。調査を受けて53件の刑事責任を追及し、容疑者147人を逮捕した。
この記事は、人手不足の現象について、直接触れているわけではない。しかしこれから人手不足の一大要因を読み抜くことができる。この記事にはレンガ工場の65%が、無許可工場であったと記されている。つまりこれらはモグリ工場であり、今まで政府の統計数値にはまったくあらわれてこなかったものである。これらのモグリレンガ工場については、悪質な違法行為があったため、政府が調査に入って始めてこのような結果が判明したのである。ここで注目しなければならないのは、このようなモグリ工場が、全産業に渡って中国全土に無数にあり、それは正規の工場よりもはるかに多く、しかも統計数値にはいっさい反映されていないという実状である。私の周辺にも、繊維産業のモグリ工場が乱立しているので、それは実証できる。中国政府もこれらの実状については、調査不能のためまったく把握できていない。つまりそのモグリ工場に、多くの労働者が吸収され、人手不足という事態を引き起こしているのである。ところが政府へ登録済みの正規の公司の統計数値で、就業可能な全労働者を割り振った場合、当然のことながら労働力過剰という計算になる。結果として、この数字を基にして、巷に失業者があふれているかのような幻想が展開されているのである。