労働契約法施行前夜の動静
                                                 
2007年11月15日
小島 正憲
 来年早々の労働契約法施行を前にして、中国社会は予想通り騒然としてきた。
 時事通信によれば、11月5日、中国の通信機器最大手の華為技術有限公司(広東省深セン市)が、来年からの労働契約法施行の対策として、ベテラン社員に対しいったん「自主退職」した上で、短期の再雇用契約を結ぶように迫ったという。対象者は8年以上勤務している7000人余り。改めて雇用契約を結ぶ場合は、期間を最長3年に限定し、再契約の期限を今年末とした。同公司は、これらの「自主退職者」に対し、給与の11か月相当の補償金を提示しており総コストは10億元という。すでに対象者の多くが「自主退職」と短期雇用に応じたという。

 この事態を受け、6日には、広東省労働局が調査に入り、中央政府の関係部門に問題なしとの報告を行った。ところが華為公司の対策はあまりにも露骨であったため、各方面から激しい批判を浴びた。7日、華為公司は新聞紙上に、「自主退職」は強制ではなく、あくまで従業員の自主的な判断だという声明を発表した。しかしこの発表だけでは火消しにはならず、マスメディアなどでの論争がさらに拡大したため、9日、中華全国総工会が乗り出し、調査を開始することになった。11日、華為公司は各方面からの非難の前に、とうとう今回の「自主退職」の方式を撤回するはめに陥り、それを公表した。

 これに対して、11日、上海早報は、この華為公司の方針を、「従業員・会社・社会の3者がともに利益を得るたいへんよい方針である」と評価し、このような方針をマスメディアが興味本位に取り上げ、潰してしまったのは残念なことであると書いている。

 この華為公司の行ったリストラ対策は、あまりにも派手だったので、各方面から槍玉にあげられたが、これはまさに氷山の一角で、水面下では多くの企業が静かにリストラを進めているのが実状である。うわさではウオールマート社も、このような動きをしていたが、華為公司の例を見て、急遽方針を転換したと伝えられている。このような事態を前にして、北京市労働局は労働法施行前の不当な駆け込みリストラを防止するために、大規模リストラの報告を義務付けた。また上海市では今年中の雇用契約満了であっても、従業員に補償金を支払うように企業側を説得している。

 反面、この労働契約法の文面には、肝心なところで釈然としない部分があり、企業側が混乱している。10月29日に開催した同友会上海クラブの第2回労働契約法勉強会でも、このような矛盾点に質問が集中した。法律を額面どおりに読むと、2回有期雇用を繰り返したあと、3回目からは無固定契約となる。しかし現実には二つの見解が錯綜している。2回目終了時点で、企業側には@労働者からの雇用継続に対する拒否権はないから、有期雇用は実質的に1回目で終わり、2回目から無固定雇用と考えるべきであるという見解と、A拒否権があるので、2回目までは有期雇用でOKであり、そこで契約を終了してもよいし、無固定雇用に入ってもよいという見解が並存しているのである。この部分については、明確な見解が発表されていない。その上、この法律の策定に参画したという学者が、自分のホームページで@が正解であると私的見解を発表しており、現場の混乱に拍車をかけている。

 また継続雇用している従業員について、2008年に入ってから、契約更新がくる場合、契約回数は新規で始まるのか、前歴は加算されるのか、それが定かではない。つまり細部にわたっては施行細則待ち施行後の判例を待つかという状態なのである。巷の混乱を避けるために、早く公式見解を出して欲しいものである。

 このような混乱に追い討ちをかけるように、中国国務院法制弁公室は5日、企業などの労働者の年次有給休暇で新たな規定を公表した。同案は、年次有給休暇は休・祝日を含めずに、勤続1年以上10年未満ならば年5日、10年以上20年未満で年10日、20年以上で年15日と規定。さらに規定通りに休暇を付与できない企業は、正規の賃金と福利厚生を提供するほか、1日当たりの賃金を標準に補償金を支払わねばならないとしている。

 さらに祝日の増加も検討されており、まさに労働者保護政策のオンパレードであり、経営者にとってはますます負担が増加してきており、深刻な経営危機をもたらす事態となってきている。まさに中国は、安い労働力を使った「世界の工場」から大きく変貌しようとしているのである。