労働契約法施行前夜の動静 その3
                                                 
2007年12月28日
小島 正憲
 いよいよ労働契約法施行が数日後に迫り、中国各地でさまざまな動きが出てきた。本来ならば、これらの動静をできる限り現場でつかみ、その実態をお知らせしたいのだが、年末も押し迫っているため、今回は情報をとにかく早くお届けすることに専念する。なお以下の情報の多くは時事通信社のメール速報からの抽出である。

 6日、上海市労働社会保障局は、労働契約法施行を前にして、解説パンフレットを印刷し、区や県の職業周旋窓口などで配布することにした。

※このパンフを当同友会上海倶楽部で、さっそく入手して一読してみたが、そこには労働契約法の条文と解説が併記され、なおかつ契約のひな型まで添えてあり、たいへんわかりやすいものである。しかし当局は6万部しか刷らなかったそうなので、すぐに品切れとなるだろう。

 13日付けの香港紙・文匯報によれば、労働契約法の詳細を定めた「実施細則」の発表時期が、当初予定の今年末からずれ込む見通しだ。中華全国総工会の謝良敏法律工作副部長が12日、深セン市で開かれたセミナーで明らかにした。同紙によれば、謝氏は「細則は100条を超えるボリュームで、関連する問題が多い。計画通りに月内に発表するのは困難」と言明。細則発表前の来年第1・四半期に労働契約法の「実施条例」が出されるとの見通しを示した。

 17日付けの広州日報によると、広州市労働社会保障局は、年内に従業員20人以上を解雇する企業などに対し、書面で当局に事前連絡することを義務付ける通知を公布した。終身雇用を促進する「労働契約法」が来月施行されるのを前に、地元企業などが駆け込みでリストラをするのを防ぐ狙い。

 19日付けの香港経済日報によると、香港に上場する中国本土の紙箱メーカー:玖龍紙業の張茵董事長は18日、香港で開催された新法令の説明会の席上、今回の労働契約法を、「労働者を保護するものではなく、失業させるものだ」と激しい口調で批判した。中国商務省は18日、香港に職員を派遣して、企業に労働契約法など来年に施行される新法令の説明会を開催した。張氏はこの席上で商務省の職員と対話した際、労働契約法の施行によって企業の雇用が柔軟性を欠いたものとなり、企業が非熟練労働者を雇用したがらないようになりかねないと主張、同法の運用は慎重にすべきだと呼びかけた。

 17日付けの中国紙:法制晩報によると、北京市海淀区法院はこのほど発表した研究報告で、「労働契約法の施行に伴い、2008年度に労働争議件数が大幅に増加する」との見通しを明らかにした。中国では契約を結ばずに労働者を雇用している企業が多いが、新法は「書面による労働契約を結んでいない場合、毎月の賃金の2倍を支払わなければならない」と規定している。このため、一部労働者が2倍の賃金支払いを求めて新法実施後、ただちに企業を訴えると予測される。同法院の李盛栄裁判官は「労働契約の締結、解雇、給与、報酬に関する争議が大幅に増加するだろう」と分析している。

 20日付けの上海市:文匯報によると、北京市労働社会保障局の労働工資処幹部は19日、新労働契約法について解説し、企業は従業員ひとりひとりに対し、賃金の具体的な内訳を明示することが必要になることを明らかにした。北京の一部企業では明細を示さないまま賃金を渡し、従業員が受領額が正当かどうかを確認できないケースがあるが、これは認められないという。新法導入後は、企業は従業員側と報酬や労働時間、福利厚生などについて協議しなければならず、その過程で報酬などの大筋は明らかになってくる仕組みだ。また同じ職場で同一の職種、労働の量と成果も同じ場合には必ず同じ賃金を適用しなければならない。

 21日付けの上海紙:文匯報によると、四川省のある酒造会社はこのほど、ビン詰め作業を行う数百人の女性従業員を一斉に解雇した。これらの従業員とは改めて、期間11か月の「臨時工員」として雇用契約を結ぶという。来年導入される労働契約法の「継続雇用」規定を逃れるための方便とみられる。この会社の人事部門によると、期間11か月の臨時工は1か月の「休養」をはさんで改めて働ける。中国の労働行政当局は先ごろ、新法逃れのために起きている「一斉解雇」に対しては認めない方針を打ち出したが、「空白期間をはさんだ事実上の継続雇用」という“新手”が出てきたことになる。

 21日付けの上海紙:東方早報によると、上海市労働社会保障局の責任者はこのほど、新労働契約法について解説し、従業員の利益に密接に関連することや重大な事項は、従業員に対し十分に公示、告知しなければならないと強調した。この手続きを取らないと、たとえその企業規定が合法、合理的であっても無効で、従業員には従う義務は発生しないという。また企業が定める規定は合法であることが求められ、そうでない場合には、従業員は雇用関係の解消や補償などを要求できるという。この責任者は違法な企業の規定の例として、「食事時間の制限」「トイレの使用制限」「女子従業員の出産規制」などをあげている。

 21日付けの中国紙:青年報によると、北京市労働保障局の関係責任者は20日、最低賃金基準引き上げ方法を検討していることを明らかにした。来年、最低賃金に関する規定が改定され、労働者と使用者の集団交渉によって最低賃金を決める方式が導入される。これにより、賃金水準が低すぎる労働者の収入増が見込まれる。

 21日付けの中国紙:新京報によると、北京市労働保障局労働工資処の李長保調査員は20日、来年の労働契約法施行を前にした不当な大量リストラなど、企業の違法行為に関する通報を電話で受け付けると発表した。

 24日の香港経済日報によると、広東省東莞市で出稼ぎ労働者が弁護士と共謀して企業から賠償金を騙し取ろうとするケースが相次いでいる。これまでに発覚した事件では、出稼ぎ労働者が工場などに就職してから間もなく、わざと仕事を怠けたり、指定の制服を着用しないなど、就労態度の悪さを理由に解雇された後に、雇用者に対して賠償金請求の訴訟を起こしたり、市の労働部門に不当解雇を訴えるなどの手口がみられたという。極端なケースでは、1人で4社もの企業からこのような賠償金を請求した労働者もあった。関係者によると、このような行動は賠償を請求する労働者のほか、企業側の不当解雇の証人となる同郷の労働者と弁護士が共謀して組織的に起こしているものが多いという。そのような場合、労働者は裁判で勝訴し、賠償金を受け取った後に、共謀者と分け合う約束をしているようだ。

 26日付けの上海紙:労働報によると、フランスの流通大手カルフールの中国法人・家楽福は28日までの期限を切り、傘下のスーパーマーケットの従業員と期間2年の雇用契約を結び直している。すでに無期限の雇用契約を結んでいる者を除き、全従業員4万人余りが対象。同社は強制ではないとしているものの、弱い立場にある従業員はほとんどが応じており、来年の労働契約法施行を前にした“負担軽減”の動きと受け止められている。家楽福のこの動きに、上海市総工会は批判的だ。労働契約法は期限付きの雇用契約を同法施行後2回までに制限し、それ以降は「期限なし」とすることを義務付けている。施行直前に契約を結べば「期限付き」を事実上1回増やせる。総工会では「従業員の企業への信頼を低下させる」と駆け込み更新のデメリットを強調しているという。

 27日付けの中国紙:財経日報によると、重慶市のある紡績工業園区では最近、繊維関連企業の操業停止が相次いでいる。その比率は進出企業の9割に上るという。一部は工場を閉鎖し廃業する見通しだ。この背景には最近の人件費上昇がある。また来年度の労働契約法の施行が拍車をかけている。同工業園区では約600の企業が繊維事業に携わり、従業員は2万人を超える。同紡績工業会の試算では、労働契約法の施行により、月給1200元の従業員の場合には、企業側の負担が380元増える見通し。競争激化でたたでさえ経営が圧迫されている企業は、採算割れに追い込まれるとみられる。