反論:「中国一辺倒にリスク」
                        19.SEP.03
                        小島正憲
  9月15日付けの日本経済新聞の連載特集に、「中国一辺倒にリスク:プラス1の勧め」という記事が掲載された。内容を要約すると、それは「中国に一大生産拠点を築いてきた企業が、中国一極集中のリスクを回避するため、中国以外にもう一つの低コスト生産拠点を確保するように、戦略を転換し始めている」というものである。そこでは、その要因としてSARS・人民元高・停電などをあげている。たしかに中国進出企業にとって今春のSARS騒動は、大きな衝撃であり、一極集中のリスクをまざまざと見せ付けたものであった。さらに最近、人民元高が声高に騒がれ始め、為替面でもリスク要因を抱え始めた。しかも上海では、今夏、停電騒ぎまで起きはじめ、インフラにも疑念が生じ始めている。これらの指摘を考えた場合、「中国以外にもう一つの生産拠点を」という「プラス1」戦略は妥当なように思われる。
  しかし中国進出中小企業にとっては、この「プラス1」戦略は自滅への道である。このような日経記事は世論をミスリードするものである。以下にそれを論証してみるが、その前にまず私のチャイナリスク回避策を示しておきたい。現在の私ならば、チャイナリスクに対抗して、他の国に拠点を作るというような愚策を弄することは絶対にしない。もし中国に想像を絶するような大変動が起きた場合、つまり中国有事の際には、私はあっさり諦めて企業を清算する。最大のリスク回避策は、いざ清算というとき、取引先にいっさい迷惑をかけず、社員などに十分報えるように、そのための蓄えをしておくことなのである。これこそがもっとも大事なチャイナリスク回避策なのである。
  実を言うと、私はすでに6年前の香港返還時点で、このチャイナリスク回避戦略として、ミャンマーにもう一つの拠点(プラス1)を設置し、ものの見事に失敗し、昨年、完全撤退をした。その失敗経験から、「プラス1」戦略は、自滅への道であると主張するのである。

  さて本題に戻り、この「プラス1」戦略の誤謬について、以下の2点から反論を展開したい。
  まず第1に、中国有事というチャイナリスクを想定するのは、もはや現実的ではないということである。またSARS・人民高・停電などは、チャイナリスクという名に値しないと考えるべきである。すでに日本経済や世界経済が、中国を抜きには成立しないという状況になっており、中国有事という場合は一企業のリスク分散などという小手先の解決方法では全く意味がない。まさに国家レベルでの対応が必要となる事態である。まさに世界経済大変動という事態で、すべての仕組みが根底から崩れるような事態である。中国進出中小企業がそれを恐れるということは、まさに杞憂である。
  またSARSにしろ、人民元高にしろ、上海停電にしろ、これは中国有事ではない。乗り越えることができない壁ではない。少々利益が減るぐらいの衝撃でしかない。この程度の問題で、経営に重大な影響が出るようならば、むしろ普段の経営が悪いのであるから、むしろそれを改善すべきである。現実にほとんどの中国進出企業が、SARSを乗り切ったし、上海進出企業も停電を乗り切った。人民元高も、対策を講ずれば乗り切ることが可能である。したがってこの程度のリスクのため に、あえて不利な第3国でリスク回避戦略をとる必要はない。
  次に、現在、日本向けの生産拠点として、中国に勝る場所はすでにないという実情をしっかり見据える必要がある。あらゆる角度から検討して、日本向け生産拠点としては、他のどの国よりも中国が最適である。したがって大企業ならばいざしらず、わざわざ損を垂れ流しながら、リスク回避のためだけの拠点を確保しておく体力は中小企業にはない。むしろこれが、企業の命取りになる可能性が大きい。中小企業では、人材面でも、財務面でも、拠点の分散はマイナス効果である。日本国内ではなく、言語・風俗習慣・法律などすべてに渡って違う他国での操業は、一国だけでも相当な重荷であるからである。
  私は1997年の香港返還時に、すでに中国国内に4工場を稼動させており、傘下の従業員総数は5000人を超えていた。そのとき私は、もし中国で内乱発生という事態にでもなれば、中国内の工場はもとより、日本の本社も倒産するという強い恐怖感に襲われた。私はリスク回避策として、ミャンマーの首都ヤンゴンに、1000人台の縫製工場を設立した。しかしその後、5年間陣頭指揮で悪戦苦闘し、失敗し、大損をし撤退することになった。(失敗の経過は、自著「多国籍中小企業奮戦記」・「10年 中国に挑む」に詳述)。この経験から、上記の結論を導き出しているのである。

  もちろん、中小企業といえども、多国籍企業に脱皮し世界に雄飛するつもりならば、日本向け輸出以外を考え、中国以外に生産拠点を確保する戦略は妥当である。私もそれを探って、一昨年来、極東ロシア・ヨルダン・マダガスカルなどの地域に拠点作りのための調査を行っている。それらの情報は、第4巻で今年末に公開する予定である。