「日本人経営者はSARSを迎え撃て」
                        14.MAY.03
                        小島正憲
  中国に突如としてSARSが発生した。中国政府の不手際もあって、このSARSはシンガポール・ベトナム・台湾などの東南アジアにとどまらず、カナダまで飛び火してしまった。この疫病は治療法がなく、致死率が高く、飛沫伝染であるため、人間の国際間移動にともない、あらゆるところに短期間に広がってしまったのである。今では、世界中がこの中国発大疫病から自国を守るために、とにかく人間の移動を制限し、感染者の早期発見と隔離という原始的手段で必死に防ごうとしている。ことに中国政府はすべての大規模な集会や会議を中止とし、末端の行政単位ごとに移動する人間を厳しくチェックし、それぞれに一種の鎖国のような体制を取らせている。それでもSARSはなかなか終息の気配を見せてこない。
  中国ではこのような厳格なSARS対策により、今、全土の工場が半ば隔離状態となり、都市はゴーストタウンの様相を呈し、ホテルや飲食店はもとよりデパートなどの売上が激減している。この謎の感染病のために、さしもの中国経済も停止状態に陥り、成長率が確実に2%は下落する事態に陥ってしまったのである。つい先日まで、世界中のすべての政治経済学者や中国ウオッチャーたちは、だれもが昇竜のごとき中国経済を予想しており、このような惨状をまったく想定していなかった。確かに中国崩壊論を語る学者も少なくなかったが、そのほとんどが中国の政治経済状況の悪化を論拠にしており、SARSのような悪性伝染病を予測したものは皆無であった。まさに、今、中国では空前絶後の事態が進行しているのである。
  この想像を絶する事態を前にして、中国進出企業の日本人経営者たちの多くは、困惑し態度を決めかね、とりあえず派遣社員ともども日本へ引き上げるという消極的対処をしている。SARSは未知の体験で、生命の危険をともなっているだけに、これらの経営者たちを一方的に批判することはできないが、これはもっとも見苦しい態度であり、最低の経営戦術である。日本人経営者は、今こそ、このSARSに毅然として立ち向かい、自らの取るべき責任と態度をはっきりさせ、逆にこれをビジネスチャンスと捉え、積極的に迎え撃つべきなのである。

  一般的に経営者の責任とは、<@社員の生活と生命を守る、A取引先の利益を守る、B社会に貢献する>、などと考えられている(上場会社の場合は最初に株主の利益を守るということがくるが、今回は非上場の中小企業を対象に考えているので捨象する)。これを念頭に置きながら、今回のSARSへの対処策を考えた場合、@の<社員の生活と生命を守る>ということがたいへん難しい。つまり中国に生産工場を持っている経営者にとって、日本人派遣社員の生命をSARSから完全に守ろうとすれば、工場を閉鎖し日本に引き上げさせることがもっとも望ましい対処策である。ところがSARS終息まで工場を閉鎖するということになれば、それは長期間に及ぶことが予想されるので、当然のことながら日中双方の会社の経営が行き詰まり、倒産という事態に追い込まれ、結果として社員の生活を守るということができなくなる。結局、日本人社員の生命を守ろうとすれば、その生活を守ることができないという大きな矛盾に突き当たってしまうのである。
  中国進出企業の中には、中国の現地工場を閉鎖せずに、日本人派遣社員だけ帰国させ、この矛盾を解決している例もある。その面だけ見ると、工場が稼動しているわけであるから、経営が悪化するわけではなく、日本人社員の生活と生命を守るということを両立させているかのように見える。だがしかし、SARSは日本人も中国人も、等しく人間として襲っているのである。現地工場を稼動させ、中国人をSARSの危険にさらし、日本人だけが安全な場所に退避しているという態度は人道的に許されない。しかもこのような対処策は、中国人からの信頼を大きく損なうことになる。
  かつて、株式会社サンテイの常川会長は天安門事件のとき、商社や大きな会社の日本人が中国からいっせいに引き上げてしまったときに、あえて敢然と中国にとどまり続け、中国人の大きな信頼を勝ち取った。株式会社サンテイの中国におけるその後の大成功は、この会長の大英断の結果である。今こそ、大先達のこの態度に学ぶべきなのである。
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