21.APR.08
香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

四川省大地震:異聞

 チベット騒動の直後に、まさにその場所で大地震が起きた。これは誰もが予測していなかったことである。その結果、マスコミは大地震の報道一色になってしまい、多くの日本人の関心はそこに強く引きつけられた。反面、チベット問題は忘れ去られてしまったかのようである。おそらく現地へ飛べば、これらのことも深く調査できるのであろうが、今のところ現地の事情もあってそれができない。今回はひとまず下記の様な視点からの報告にとどめたい。

1.治安は良好

 今までのところ、大災害にはつきものの大きな略奪事件などの騒乱の報道がほとんどない。下記に掲げるような小さな事件が起きているようだが、これは取るにたりない。四川省周辺では治安状態はよいと判断でき、この地震を契機に大きな騒乱が巻き起こるという状況ではない。

  • 日本のテレビ報道では、倒壊寸前の家屋から居住者が避難している間に、家屋に侵入し略奪を働く犯罪者を摘発し、トラックなどに乗せみせしめにしている状況が見受けられた。
  • 時事速報:5/19付けによれば、四川省の大地震被災地で救援物資の略奪事件が起きていると伝えている。救援活動に参加しているボランティアからは、現地当局に物資輸送の安全を確保する措置を求める声が出ている。また、車で物資を綿竹市まで運ぶ途中、略奪にあったというボランティアはインターネット上で、犯人グループについて「笑いながら物資を奪っていた。もっと救援を必要としている人々がいることを知らないのか」、「世界で一番醜い場面を目にした」などと憤りを示した。
  • 時事速報:5/27付けによれば、綿竹市で25日、小学校の倒壊で子供を亡くした保護者数百人が手抜き工事を疑いデモ行進し、これを止めようと市トップの蒋国華・市共産党書記が土下座する事態が起きた。最終的には保護者たちはバスで上級機関の徳陽市へ向い、直訴した。同党委側は、1か月以内に調査して、手抜き工事が発覚すれば遺族に賠償するとともに、「責任者を法廷に送る」と約束したという。
  • 時事速報:5/28付けによれば、27日午後、綿竹市で、小学校の倒壊で子供を失った住民約30人が「倒壊は手抜き工事が原因だ」と主張して、幹線道路を一時封鎖する抗議デモを行った。今回の地震では多くの学校が全壊。構造がおからのように軟弱な「おから工事」ではなかったかとの声があがっているが、街中で交通を妨害するという公然たる抗議行動は異例。デモ参加者は路上で「天災ではなく、人に責任がある」、「子供を返せ」と書いた紙を掲げ、イスを並べて道をふさいだ。現地当局者が駆けつけ、「調査して結果を公表するので、解散してほしい」と説得。約2時間後に封鎖が解かれた。警官も約10人出動したが、デモを取り締まろうとしなかった。
  • 時事速報:5/28付けによれば、四川省民政庁は四川省大地震の被災者向けの寄付の官吏規定を設けた。救援資金や物資の横流しが相次ぎ指摘される中、分配をめぐる透明度をアップするのが狙い。寄付対象が指定されていない1件当たり1000万元以上の救援資金の使い道は省長の許可が必要。被災地に直接届いた物資は、手を加えて転売することを禁止。被災者への支給が好ましくないと判断された物品も自由に処分してはならず、同庁への報告と承認を義務付け。
  • 時事速報:5/15付けによれば、四川省大地震に便乗し、携帯電話のメールなどを利用した振り込め詐欺が横行しているという。中国公安省はサイト上で警戒を呼びかけた。
  • 時事速報:5/22付けによれば、「全国追悼日」最終日の21日、北京の天安門広場に集まった学生や市民約2000人が街頭をデモ行進した。規制の厳しい同広場周辺でデモが行われるのは異例。群衆は約1時間後、警察の説得に応じて解散し、大きな騒ぎはなかった。学生らは地震発生時刻に黙祷した後、大きな国旗を先頭に、「がんばれ中国」、「がんばれ四川」と叫びながら行進。学生の1人は「自発的で事前に組織されたものではない。どこまで行くか知らない」と話した。デモ隊は歩道を進み、幹線道路に出る手前で制止された。警察の責任者が「気持ちはわかるが、しっかり勉強や仕事をすることが被災者支援の一番よい方法だ」と説得。警察側の提案でいっしょに国歌を歌い、拍手とともにデモを終えた。
  • 朝日新聞:5/26付けによれば、中国政府の若手官僚は、職場で哀悼日のテレビ中継を見ながら胸をなでおろし、「チベット騒乱で開きかけた"パンドラの箱"はひとまず封印できた」と語ったという。
  • 時事速報:6/02付けによれば、四川省阿埧藏族羌族自治州政府の州長の張東昇氏の交代が31日までに決った。大地震直後という緊急事態の中で現地州長が異動するのは異例。地震発生後の対応に不手際があったとして更迭された可能性がある。後任は呉沢剛副州長。張・呉の両氏はともにチベット族。

2.チベット族側の状況については情報が少なく不明

 今回の大地震の被災地の中には、チベット族の居住地も含まれている。したがってチベット寺院の倒壊現場やチベット族僧侶の救援活動の情報があってもおかしくはないが、テレビ画面などでは僧侶の姿は皆無である。またチベット自治区政府や海外のラマ教信者からの支援状況もさだかではない。残念ながら、下記のような情報しか入手できなかった。

  • 新華社成都発:5/20付けによれば、四川省阿埧藏族羌族自治州では、阿埧各寺院の僧侶が連日、自発的祈祷会を行い、地震で亡くなった同胞に祈りを捧げている。地震発生後、各寺院はかなりの程度の被害を受けたが、救済活動を行いながら募金活動を行い、19日11時までに全州11寺院で合計552305元を集め、被災者に送った。

  • 中国新聞ネットによれば、23日午後4時までに、チベット自治区人口280万人で、義捐金3500万元を達成した。その他の援助物資もかなりの量にのぼる。
  • チベット日報:5/24付けによれば、22日午後、チベット宗教会は愛国心を表明するために、中国仏教協会西藏分会副会長が再び援捐金を寄付し、副会長ら9人すべてが援捐金合計78300元を寄付した。
  • チベット日報:5/24付けによれば、22日にチベット自治区政府は四川被災地の茂県に90人の医療救援隊を派遣した。このメンバーはチベット医科大学第一付属病院、チベット自治区人民病院、チベット疾病予防控制中心などの骨科、外科など中堅専門医師で構成した。
  • 朝日新聞:5/27付けによれば、チベット難民約1万8千人が住むネパールの首都カトマンズの中国大使館領事部前では、3月の騒乱以来、難民の抗議デモがほぼ毎日続いていたが、大地震後、ピタリと止まった。活動家の1人は「これだけの災害が起きた以上、自粛するしかない。運動にはダメージだが」と話しているという。
    インドのダラムサラにある亡命政府は5/15、世界各地の亡命チベット人に対し、抗議活動を当面停止するように呼びかけた。ただ、「完全な独立」を掲げ、抗議活動を主導してきた亡命チベット人の最大組織「チベット青年会議」の幹部は、「地震後はチベットの状況の報道がほとんど止まった。人災と天災は区別すべきだ。抗議活動は必ず再開する」と述べている。
  • 京都大学上海センターの山本教授らは、5/22に青海民族学院のチベット族の2人の教授から直接聞いた話として、下記の様な指摘をしている。
    ①四川省阿埧藏族羌族自治州で地震にあった主要な地区は、漢族と羌族の地区である。
    ②チベット族は分散して住んでいるため、大きな地震被害には基本的に遭っていない。
    ③特に遊牧民はゲル生活のため、建物の崩壊での死亡はない。

3.その他のネット情報

 今回の大地震では、いろいろな意味でインターネットが活躍した。自衛隊機でのテント輸送中止もネットでの反対世論が大きく影響したと見られている。各種のインターネットの情報を下記にあげておく。今後、ネット世論にどう対応していくかが、大きな問題となろう。

  • 時事速報:5/22付けによれば、多数の犠牲者が出た山間部では、交通や通信事情が悪くアクセスが困難。身内や友人の安否確認のため、徒歩で被災地を目指す人の姿も目立ったが、情報入手に結びつかずむなしく引き返す人が多かった。そのような中で、インターネット上で安否確認の書き込みをする人が増え、あるサイトでは7万人近い人が安否情報を求めている。これまでに130人以上の安否確認に成功したサイトもあるという。
  • 時事速報:5/16付けによれば、中国公安当局は15日までに、四川省の地震に関連した「悪意あるうわさ」をインターネット上で流したとして、17人を処罰した。うわさの内容は明らかにしていないが、成都で広がった「水道水の汚染」などのデマはネットが出所といわれる。
  • 時事速報:5/16付けによれば、中国国営中央テレビの若手女性記者が、四川省の大地震被災地に関する電話レポートで、現場に行かずに話をデッチ上げたのではないかという疑惑が浮上。インターネット上で集中砲火を浴びた。
  • 時事速報:5/29付けによれば、中国国営中央テレビの男性アナウンサーが、四川省大地震の報道で、外国からの見舞いの電報を「祝電」と言い間違え、インターネット上で視聴者から非難を浴びた。
  • 時事速報:5/19付けによれば、四川省大地震で死亡した人たちを追悼しようと18日、インターネット上に合同慰霊祭のサイトが設けられた。「全国の青少年は遊ぶのを1日やめて、震災で亡くなった同胞に哀悼の意をささげよう」と呼びかけた。また亡くなった人たちや遺族に贈る言葉が書き込めるサイトが開設され、それはネット上で「大震災記念館」として長期保存されるという。
  • 時事速報:5/22付けによれば、温家宝首相が綿陽市北川市を視察中、「地震跡として保存し、博物館に」と地元幹部に述べた。綿陽市観光局はこの発言をバックに「5・12特大地震記念館を建設し、震災教育の基地にしよう」と呼びかけ、インターネット上でも多くの支持を集めている。しかしまだ地震から10日余りで、行方不明者が四川省全体で2万人もいる段階で、博物館建設の動きが出ていることに「地震跡を名目にした観光地化ではないか」と反発する意見もネット上に書き込まれている。
  • 時事速報:5/29付けによれば、米人気女優のシャローン・ストーンさんが中国四川大地震について、「大地震はチベット騒乱への中国の対応が悪かったから起きたのではないか」と発言したことに、中国で怒りの声が上がっている。中国や香港の芸能界、ネット市民から非難が集中。ストーンさんがモデルを務める仏化粧品クリスチャン・ディオールの不買運動もネット上で呼びかけられ、ディオール社は「彼女個人の発言で、わが社は認めていない」と釈明する声明を出した。なおストーンさんは、すぐに中国人に向け、「間違った発言をして申し訳ない」と謝罪した。