6月初め、私は上海で四川省の大きな地図を探し回った。地図はすべての書店で売り切れだった。しかし私はそこで異様な光景に出会った。どの書店でも、店頭に“徳川家康”の本が山積みにされていたからである。その後、私は地図を持たずに四川省の調査に向った。成都に着いてすぐに市中の大きな書店に行き、やっとそこで地図を手にいれた。ところがそこの書店にも、新刊書の特別話題コーナーに“徳川家康”が山積みにされていた。そして多くの人が手に取って読んでいた。
今、中国で、山岡荘八著の“徳川家康”がブームになっているのである。「商法」5/20付けによれば、今年の初め、第1部が出版されて以来、すでに20万冊が売れ、5/20時点で第7部までが刊行され、合計発行部数は100万冊を突破したという。計算してみると、中国全土で毎日1万冊ずつ売れたことになり、多くの中国人からベストセラーとして注目されているのもうなずける。ちなみに7/06時点の店頭では第10部が売り出されている。
出版社では“徳川家康”を刊行するのに、とても慎重だったという。それは反日意識などの問題ではなくて、この本が大著であり、分量が多すぎて採算が取れない恐れがあったからだという。しかも台湾で発刊されている山岡荘八著“徳川家康”は600万文字、52巻で26部の分量で、発刊当初は販売に苦戦したという情報もあったからである。
このような状況で、本書の出版企画責任者は、まず事前調査を徹底して行なった。図書に最も厳しい見方をすると同時に読者や販売にもっとも影響がある評論家と売り場担当者を100人選んで、彼らの意見を聞いたのである。まず企画責任者はこの本の内容や日本での売れ行きを紹介し、次に「日本の中曽根康弘元首相が内閣の構成員全員に必読を勧めたこと」、そして「日本では経営の神様として崇められている松下幸之助翁が社員の必読書として指定し、その理解度で幹部を査定していた」ことなどを知らせた。評論家の反応は非常に積極的で、中には早く出版するようにとの催促すらあったという。
逆に売り場の担当者の反応はあまりかんばしくなかった。中国の読者は日本版“三国志”などに興味を持たないだろうというのである。このような感想に対して、企画責任者は彼らに“徳川家康”が日本で4億冊も発行されており、戦後の日本の経済混乱期に日本人の思想に大きな影響を及ぼし、その後の日本経済の発展に寄与したと話した。また台湾でも“徳川家康”が翻訳出版されてから、政財界や学会など多方面で受け入れられ、よく閲読されているという事実を紹介した。このような努力の結果、売り場の担当者たちも、この本の出版に興味を示すようになった。
図書評論家と売り場担当者などの評価が確定したので、南海出版社は中文簡体字の“徳川家康”発刊を決めた。2003年に出版社は“徳川家康”の出版権を正式に取得し、翻訳に着手した。企画責任者はこの本をベストセラーにするために、さまざまな工夫を凝らした。とにかく優秀な翻訳者と編集者を起用し、チームを編成し、中国の読者にもっとも適した風格の本を作るように努力した。2年間かけて翻訳を終了したが、それをさらに100名以上のモニターに試読してもらい、彼らの意見を踏まえ修正して「読者に快感を与えるような翻訳」に近づけた。そして2008年初めに全13部のうちの第1部を発刊した。
これらの出版元の努力と、おりからの日中関係の雪解けムードが相乗効果をもたらし、“徳川家康”はベストセラーとなった模様である。いずれにせよ、日本の歴史上の人物への関心が深まることは、中国人が日本を理解する上で大きな力を発揮するし、さらなる日中関係の進展によい効果をもたらす。次には“西郷隆盛”などがブームになることを望むところである。
ネット上ではこのブームに対しておおむね好意的な反応が寄せられている。下記にその一端を紹介する。
①“徳川家康”は日本大和魂の精神的保塁であり、第2次戦争後、憔悴し切った日本人を再び奮い立たせ、 迅速に立ち直らせた世界経済大国日本の最大の功臣である。彼のお陰で、焦土の中から日本は立ち上がった。台湾の作家:柏楊は「第2次大戦後、日本は早期に復興した。中国は勝利したがとても悲惨だった。
その原因は、中国には“徳川家康”のような崛起の精神を持った人物を紹介する文学作品がなかったから である」と語っている。
②徳川家康は日本史上でもっとも偉大でもっとも英雄的な人物であった。日本人は数百年間、徳川家康を 尊敬し続け、彼の個性、謀略、思想などはすでに日本文化の一部分となっている。元米国駐日大使のライ シャワー氏は、「日本を知りたいと思うならばまず徳川家康を理解すべきだ」と語っている。
③“徳川家康”の読者層は9~99歳と言われているが、人生の間で一度は読むべき本である。しかも1回だ けでなく何回も読む本である。この本は生存哲学と知恵の学習宝典でありながら、同時に商売人や経営幹 部などに勝ち方を教える策略本である。
④織田信長と豊臣秀吉と徳川家康のホトトギスに対する態度は、たいへんおもしろかった。中でも徳川家康 の「鳴くまで待とうホトトギス」という態度の中に、彼の成功の秘訣があると思った。日本の戦国時代の勝者に なった徳川家康は忍耐と我慢の人間だったことがよくわかった。
⑤徳川家康の明言はとても好きです。「人の一生は重荷を背負うて遠き道を歩むが如し。急ぐべからず」、「堪忍は無事長久の基」、「勝ちを知り、負けを知らざれば、害その身に至る」などなど、私も自分の心に言 い聞かせたい。
⑥“徳川家康”の内容はとてもよかったが、私たちが読むにはちょっと疲れる。とくに本の中の日本人の名前 は覚え難かった。 以上

