08.AUG.08
香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

温州商人と浙江省騒動

 時事速報:7/15付けは、中国浙江省玉環県で12、13の両日、出稼ぎ労働者1000人以上が警察の派出所を包囲、拘束された仲間の釈放を求め、レンガを投げつけるなどして建物を壊す騒ぎが起きたと伝えた。騒動は、暫定居住証の手続きに際し労働者が治安当局と口論になり、殴られたのがきっかけ。家族や労働者ら数百人がこれに抗議したが、労働者23人が拘束され、騒ぎが拡大した。現場には武装警察官300人以上が出動して取り締まりに当たったという。
 私はこの記事を読んですぐに、地図上で玉環県の場所を探してみた。それは温州市のすぐ側にあった。温州市とは、現代中国経済を揺り動かしている温州商人の発祥の地であり、大金持ちが多数居住している都市としても有名であるという。私はその温州市周辺で起きた今回の出稼ぎ労働者の騒動は、「貧富の格差に怒りの声を上げる民衆の騒動」として取り上げ記事にするには、絶好の題材であると思った。私は8/05、06の両日、上海から車で片道6時間余り走って現地取材を行った。今回はその報告と、中国の暴動一般に対する私見を述べる。温州商人については本稿末尾に簡単に触れておくので、参照していただきたい。

1.浙江省玉環県騒動

①玉環県騒動の実態  (以下は、複数の現地人から取材し合成)

  • 7/10 玉環県で働く外地人労働者の老人(50代後半と思われる)が、街中で警察に尋問され、その際、身元照明のため暫定居住証の提示を求められた。老人は暫定居住の手続きをしていなかったため、坎門派出所へ連行され、手続きを強要された。(派出所という名前になっているが、日本の署に相当する大きく立派な建物であった。写真参照)。手続き終了後、警察から費用の40元を請求されたが、老人は20元しか所持しておらず、支払いをめぐって警察と口論となった。その際、老人は警察に殴られ、額から少し血が出るぐらいの怪我をした。
  • 7/11 昨日の老人が息子2人と100人ぐらいの外地人仲間を連れて、午後8時ごろ坎門派出所を訪れ、昨日の警察官に抗議した。(ある外地人タクシー運転手によれば、息子とその友人たちは暴力組織と関係があるという)。彼らはひとしきり騒いだあと、10時ごろ解散させられた。
  • 7/12 午後6時ごろ、老人とその仲間は再び坎門派出所に押し寄せ、猛抗議をした。その騒ぎを聞きつけた外地人などの野次馬が1000人ほど派出所周辺に群がった。そのうち老人を含む中心人物が、投石を始め、派出所の窓などが壊された。警察側は坎門派出所の警察官だけでは、この騒動を防ぐことができず、玉環県全体の警察を出動させ、派出所前の道路を封鎖した。ところが近所の工場の退勤時間と重なったため、30分ほどの間に警察前の道路は2000人ほどの野次馬でいっぱいになった。警察は野次馬の排除に実力行使を行なったため、一般の通行人にも殴打されるなどの被害が出た。8時ごろには騒ぎも収まり、抗議グループも解散した。

②私の見た玉環県騒動

  • 浙江省玉環県の騒動は、さほど大きなものではなく、抗議行動が行き過ぎたぐらいの程度のものであった。マスコミの「騒動」という報道はおおげさである。
  • 貴州省瓮安県の暴動現場と比べると、はるかに穏やかであった。建物の被害は最小限であり、騒動日から20日後の8/05には、すでに完全に修復され、その痕跡はまったくなかった。(写真参照)
    貴州省瓮安県の公安のビルは、同じように暴動発生20日後でも、焼打ちされた黒い焼け跡が外壁に広範囲に渡ってくっきりと残っていたし、人民政府の建物はひどく破壊されたため、最上階まで足場を組んで修理中であった。
  • 坎門派出所のすぐ隣の公安交警のビルはまったく襲われず無傷であった(写真参照)。道路を挟んだ一般商店もまったく被害はなかった。この事実は騒動の目標が坎門派出所に限定されていたことを示し、規模が小さかったことを表している。
  • 8/05 坎門派出所前はまったく緊張感がなく、私がタクシーから降りて写真を撮っていても咎められることはなかった。貴州省瓮安県の現場ではパトカーが10台余、現場周辺に配備され、警察官が不審者を誰何しており、道路を歩いているだけで緊張感がただよっていて、とても撮影どころでなかった。

③玉環県の環境

  • 玉環県は小さな島で温州市の対岸にある。温州市から車で30分ほど走った蒲岐からフェリーが出ている。そのフェリーは片道20分ぐらいで、20分ごとに便があり、往来客が結構多かった。大型トラックなどは島の北部の橋を利用しているということで、フェリーには乗り込んでいなかった。
  • 私の予想に反して、温州市と玉環県とはかなり離れており、「貧しい玉環県の外地人が大金持ちの温州商人との格差に不満を持ち、騒動を起した」というストーリーは現実的ではなかった。
  • 玉環県は従来の現地人の人口が40万人で、外地人が50万人(推定)、合計90万人ほどとされている。
    発電所、港などが整備されており、工業園区ではかなりの企業が稼動中であった。ここに外地人が多数雇用されている。外地人の出身地は主に四川省・安徽省などということだった。
  • 玉環県は麻薬の常習者や密売者が多いといわれており、街中で「禁毒」の立て看板をよく見かけた。また隣接する温嶺市には麻薬患者のために、船で半年間ほど外洋に出る治療コースが用意されているほどである。そのような背景から、玉環県に暴力組織があるであろうことは容易に推測できる。

2.提言:「中国の暴動の客観的評価基準を設ける」

 多くの中国ウオッチャーは、中国における暴動をすべてひとくくりにして「暴動」として報道している。(今回の浙江省玉環県のように騒動として報じている場合もあるが、私は浅学なので、暴動・騒乱・騒動・騒擾などの用語のそれぞれの明確な定義を目にしたことがなく、それらを区別することができない。したがって以下の記述ではすべてを暴動として表記する)。彼らによれば、2006年度には中国全土で8万5千件以上の暴動が発生しており、それは中国をきわめて危険な状況に陥らせていると報じられている。しかしこれらの暴動が全部、政府の転覆を目指した暴動とみなすのは早計であり、「貧しく虐げられた民衆と腐敗し権力を持った政府当局との対立」と捉えるのは誤りである。むしろ暴力組織がからんでいたり、民衆の側の法外な要求が原因であることも多い。したがってこれらの暴動が多数生起しているということを根拠にして、中国が今、崩壊の瀬戸際に立っているかのようにと論じるのは間違いである。これは私の前回の貴州省暴動と今回の浙江省騒動の取材報告で明らかである。

 私はこれらの多くの暴動がやがて政府の転覆につながるような、大きな流れになる可能性があることを否定するものではない。しかし私は中国早期崩壊待望論に組みするものでもない。中国とのビジネスに深く関わった者として、全世界と日本と中国自身のために、今後の中国が安定した政治経済社会体制に軟着陸することを望むものである。だから暴動を針小棒大に報道し、すべてを「虐げられた民衆と腐敗した政府当局との対立」という構図で描き、国外からの反感を喚起しようとすることには反対である。現在中国に必要なのは、中国で生起している現実を直視し、正確に分析し、よりよき解決方法を提言することであり、それこそが先輩民主主義国の責務なのである。いずれの先進国も程度や多少の違いこそあれ、歴史上で暴動などの洗礼を受け、それをくぐりぬけてきた経験を持っているからである。もちろん私は中国が覇権国家となることにも反対である。

 そこで私はマスコミに以下の提言をしたい。≪今後の暴動に際しては、地震の際の「震度」や「マグニチュード」のように、客観的・科学的な評価基準を設け、それで評価し報道する≫ これを用いて報道すれば、中国の暴動の現実を誤解なく、伝えることができる。また中国の実情を明確につかむことができる。さらに学者諸氏には、このような観点で過去の暴動を整理してもらい、先進各国の暴動との比較検討などをしてもらいたいものである。そうすれば中国が暴動で崩壊するかどうかがもっとはっきりつかめる。

 ≪私の暴動評価基準≫
暴動レベル0:抗議行動のみ 破壊なし
暴動レベル1:破壊活動を含む抗議行動 100人以下
       (野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ
暴動レベル2:破壊活動を含む抗議行動 100人以上
       (野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ
暴動レベル3:破壊活動を含む抗議行動
       一般商店への略奪暴行を含む
暴動レベル4:偶発的殺人を伴った破壊活動
暴動レベル5:テロなど計画的殺人および大量破壊活動

3.7月下旬の各地の暴動

 上記の評価基準に従い、7月下旬に起こった中国各地の暴動を分析すると下記のようになる。ちなみに貴州省瓮安県の暴動は暴動レベル2、浙江省玉環県の暴動は暴動レベル1

①7/21:時事速報。 広東省恵州市で17日、治安当局者が市民を殴り殺したといううわさが流れ、これに抗議する数百人が政府施設を襲撃する暴動が起きた。警官3人が死亡したとの情報もある。殴り殺されたといわれるのは、バイクで人を運ぶ仕事をしていた湖南省出身の男性。治安当局者に拘束され、釈放の条件として200元を要求されたが、拒否したため殺されたという。その後、政府施設や警察車両などが破壊される事態となったことから、数百人の人民武装警察部隊が出動して鎮圧した。  → 暴動レベル4 (殺人がなかったとしたら、暴動レベル1


≪修復された公安のビル≫


≪隣の破壊されなかったビル≫

②7/21:時事速報。 少数民族地域の雲南省孟連県で19日に発生した暴動について、地元公安当局が住民20人を拘束したと伝えた。暴動では警察のゴム弾発射を受け、住民2人が死亡。衝突拡大を阻止するため、数百人の武装警察隊が現地に投入された。この日、1000人以上の農民らと100人以上の警察隊が衝突。同県政府が、地元で栽培されるゴムをめぐり、農民が独自に販売することを禁じ、県の関係部門が一括して買い上げた上で売るように命じたことをきっかけに農民が不満を高めた。政府の買い上げ価格は独自に販売するよりも40%低いという。死亡した2人と重症の1人はすべてタイ族。→ 暴動レベル4 

③7/21:時事速報。 河北省広宗県公安局で今月9日、爆弾事件が発生した。庁舎内のガラスが割れ、10人が負傷し病院に搬送された。爆弾事件の背景は不明だが、「県内のある村民の警察官に対する不満が原因である可能性もある」と地元タクシー運転手が証言している。 → 暴動レベル4

④7/22:時事速報。 広西チワン族自治区の欽州市で15日、失業した労働者や強制立ち退きの対象となった農民1000人以上が市政府庁舎前で抗議デモを行なった。さらに数百人の農民が合流しようとしたが、人民武装警察に阻止され10人以上が拘束された。デモ隊は当局側が対話に応じたため解散した。 → 暴動レベル2

⑤7/24:時事速報。 雲南省昆明市で21日に起きたバス連続爆破事件で、同市公安局は23日、爆発物が入っていた手提げ袋を公開した。プーアール(原文では漢字)茶の会社の袋で、最初に爆破された路線バスから見つかった。一方公安局は有力情報の懸賞金を10万元から30万元に引き上げると発表した。 → 暴動レベル4

⑥7/28:時事速報。 2週間後に迫った北京五輪の競技チケットの最終分の販売が25日午前、北京市内で始まり、5万人以上が長蛇の列をつくった。五輪本番では観客らが押し合いで将棋倒しになったり、長い待ち時間に不満が続出したりするトラブルが懸念されるため、公安当局と武装警察はこの日、「予行演習」も兼ねて1万人以上を動員、厳戒態勢を敷いた。しかし、「われ先に」と急ぐ人たちで現場は混乱状態に陥り、警官による暴行が相次いだ。競技会場に近い五輪センター区の野外広場には、多数の徹夜組を含めて数キロに及ぶ列ができ、公安や武装警察が包囲する形になった。公安当局者は列の中で騒ぐ者や不審な人物を見つけると、列から引きずり出して公衆の面前で殴る蹴るの暴行を加えるなど、暴力で秩序を維持しようとの強硬姿勢をあらわにした。 → 暴動レベル1

⑦7/30:時事速報。 雲南省の昆明空港で29日朝、航空機の出発が遅れて一夜を過ごした乗客が宿泊や食事の手配がなかったことに怒り、制止しようとした警察と衝突、机やパソコンを壊すなどの騒ぎがあった。同空港では28日夜中国南方航空の長沙や貴陽行きの3便が悪天候のため離陸できなかった。29日未明、同航空は一部の乗客にホテルでの宿泊を通知したが、車の手配はなく、ホテル側も宿泊の連絡を受けていなかった。乗客はホテルまでタクシーで往復した揚げ句、空港ターミナルで一夜を過ごさざるを得なかった。昆明では21日に連続バス爆破事件が起きて空港の警備も厳重になっていたが、警察は騒ぎを抑え切れなかった。 → 暴動レベル1

4.最近の政府の暴動対応

 過去において、一般民衆の行動に対する警察の対応は武力の過剰行使の時代が長かった。これは法律を守らず傍若無人に振舞う民衆を統御するために、必要な方法でもあった。しかし政府当局側からも数年前から、その行過ぎた武力行使に対して、見直しの傾向が出ていた。たとえば、私が3年ほど前、上海の地元の公安幹部と恒例の情報交換をしていた際、その幹部が、「われわれもだんだんやりにくくなった。今までは悪い奴をみかけたら、すぐに殴りつけることができたが、最近ではしっかり尋問して証拠を取ってからしかできなくなった。このようなわれわれの態度を弱腰と見て、悪い奴らがのさばり始めなければよいのだが」と話していた。

 最近、中国共産党中央規律検査委員会や国家陳情局などは、「陳情工作違反に関する規律処分暫定規定」を公表した。規定は、警察が違法に武器を携帯または使用し、暴動など民衆集団事件に対処した場合、直接の責任者を最高で免職処分にすると定めた。中国では、政府機関に不満を訴える地方の農民や民衆の陳情が暴動に発展するケースが増えている。今月19日には、雲南省孟連県で住民と警察隊が衝突。警察の発砲したゴム弾で住民2人が死亡している。規定公表には、警察の腐敗や横暴に民衆の不満が高まる中、暴動鎮圧のため警察が権力を乱用し、ますます社会矛盾が深刻化することを防ぐ狙いがありそうだ。同規定は、違法に警棒や手錠などを使用して集団に対して強制措置を講じたりした場合も、処分の対象になるとしている。(時事速報:7/25付け)

 民衆の抗議活動に詳しい中国社会科学院農村発展研究所の乾建嶸教授は「地方の民と官の関係が緊張しており、公平かつ公正な司法制度の欠如が最大の問題だ」と指摘。「具体的な当局者への疑念が政権・体制への不満に発展し、地元政府そのものを敵とみなす傾向が強くなっている」と解説する。「地方では民衆の不満が鬱積、そのはけ口を探している。誰かの小さな怒りが出れば、それに便乗する形で燃え上がる“うっぷん晴らし型”の暴動が増加。当初の抗議の原因と直接関係のない多数の民衆が暴動当事者なっているのが特徴だ」とも話している。(時事速報:7/21付け)

 中国のネット上で、7/01に上海の公安局に押し入り、警官6人を刺殺した楊佳被告(28)の犯罪をどう評価するかで熱い議論が交わされている。「楊佳をたたえる。尊い暴行だ」などと英雄視する書き込みも目立つが、背景には腐敗や横暴な態度が横行する警察への民衆の不信感と怒りが潜む。「警官を殺さなければ、警察制度は100年たっても変わらないだろう」。こうしたネットの書き込みのほか、北京の専門家も「楊の怒りの矛先は警察だけではない。その独裁体制に対する憎しみがあったのは明らかである」と指摘している。北京五輪を控え、中国指導部は、一警官に対する恨みという「小事(ささいなこと)」が、共産党の一党体制への不満という「大事(大問題)」に発展し、社会不安が高まることに懸念している。(時事速報:8/04付け)

 北京の人権派弁護士は「中国社会の“平静”は抑圧で作られた見せ掛けのものだ」と語る。警察による横暴の裏で、民衆の不満は底辺に溜まっている。抗議行動に対して警察が違法に武器を携帯または使用するなど権力を乱用すれば、責任者を最高で免職処分にすると指導部が緊急に規定したのは、不満の拡大を食い止めたいからだ。国営新華社通信発行の「瞭望」誌までもこう危機感をあらわにする。「個人の極端な暴力行為に伴う現実の危害程度はテロを超えており、防止もテロより難しい」。今や、「警察国家」の変革が迫られている。(時事速報:8/04付け)

5.温州商人とは

 温州商人は中国のユダヤ人と呼ばれており、「お金が儲からなければ死んだ方がまし」という強い信念を持っている。温州人は総勢で750万人と言われており、そのうち温州以外でビジネスを行い活躍しているのが200万人、つまり4人に1人が他所で商売をやっていることになり、そのうち50万人が海外で商売をしている。温州人は全世界に展開しており、その店舗も全世界に存在している。たとえばパリ市内やローマ駅周辺には幾千の店舗があり、パリだけで温州移民が15万人住んでいる。

 温州商人は勤勉で、1分たりとも時間を無駄にせず、しっかり働く。温州商人は販売がとても上手である。お客に嫌な顔をされても、いつも笑顔で応対し、一生懸命売りさばく。温州商人の目から見ると、すべてが金儲けの種であり、彼らの頭の中にはいつもビジネスアイディアが溢れている。

 温州市は三方を山で囲まれており狭い地域である。温州人は昔から他所へ進出していくことに抵抗がなく、お金儲けのために海外へもどんどん出て行った。そしてその地で、温州村を形成していった。日本にも温州人のみの組織が作られているほどである。

 温州人から見れば、職業に貴賎はなく、その判断基準は「お金が儲かるかどうか」である。中国の改革解放後、温州人は中国の隅々まで進出し、小さな洋服の仕立て屋、靴の修理屋、小さい床屋などの人目を引かない仕事をコツコツと続け、お金を貯めて、小商人に成っていった。そして次には温州美容、温州服装、温州電子などの分野に進出し、温州ブランドを確立していった。その後、中国の経済成長の波に乗って、儲けたお金を金融や不動産で運用し、財閥になっていった。

                                                      以上