01.SEP.08
香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

ペット犬と狂犬病リスク

 私が住んでいる上海のマンションの1階に、可愛い犬が飼われている。小さな犬だが甲高い声で吠えるので、2階の私の部屋にまで聞こえる。夜などは結構うるさい。中国では日本のマンションのように、ペット禁止をうたっているところは少なく、今のところ、ワンワンと吠える声に対抗するには我慢という方法しか見当たらない。最近では、私のマンションに限らず、街中でも結構多くの飼い犬がいる。私は糖尿病対策で、毎日夕方30分間ぐらい散歩に出かけている。散歩コースは毎日変えているが、その都度、10匹前後の大小さまざまな犬に出会う。いずれも飼い主がしっかりヒモで繋いでいるので、恐いという感じはない。

 2006年度には、上海市内で10万人が犬に咬まれたという。当時、上海市内には50万匹の犬がいると言われており、そのうち飼い犬として登録されているものは10万匹に過ぎず、その他は“黒戸籍犬”(未登録犬)であるという。当然のことながら、その“黒戸籍犬”は狂犬病の予防注射はしておらず、巷では狂犬病の流行が恐れられた。

 それらの状況を事前に察知していた上海の日本総領事館は、2005年1月、狂犬病の注意情報を発した。そこには、「中国国内には狂犬病があり、毎年千名以上の患者がなくなっています。狂犬病は狂犬病ウイルスによって伝播する、死亡率が非常に高い危険な病気です。狂犬病に罹っている動物に咬まれたり、傷を舐められるなどした場合には、24時間以内にワクチンの接種を開始する必要があります。‥‥ 上海では、狂犬病には上海市各区にそれぞれある疾病予防控制中心が対応しています。原則として24時間対応ですが、日本語は通じません」と書いてあり、日本での予防接種についても説明してあった。

 かつて私はミャンマーで仕事をしていたが、そこではいたるところに野良犬がゴロゴロしていて恐くて仕方がなかった。実際にわが社の社員が犬に咬み付かれ大騒動したこともあった。日本では狂犬病はすでに忘れさられた病気になっているが、上記の上海総領事館の注意情報に接したとき、私はミャンマーのときのことを思い出し、わが社の中国派遣社員全員に、予防接種を受けさせようと真剣に検討したことがある。しかし狂犬病の予防接種はなんども繰り返さなければならず、結構面倒だったので断念した。

 その後、数年が経ち、中国の経済成長とともに、中国全土でペットもどんどん増えてきた。一昔前まで、中国ではほとんど犬を見かけず、「犬は食用にされてしまっていないのだ」と冗談を言っていたものであるが、最近では、ペットショップや動物病院、動物美容院など関連ビジネスも増えてきた。猫は建物の中に居るのでわからないが、確かに犬は街頭でよく見かけるようになった。それとともに狂犬病の問題が現実化してきており、上海市政府もそれまでの≪上海市犬類管理弁法≫を修正し、それを市民に徹底させ始めた。

 犬を飼う場合の上海市の規定には、飼い主が上海市の戸籍を持つこと、飼い犬の入手が正常ルートであることを証明すること、飼い犬が獣医の防疫検査に合格していること、地域住民の同意が必要なこと、一匹しか認めないこと、家の出入り口は他人との共用であってはならないこと、飼い主の居住面積は上海市一人当たり平均面積の2倍以上であること、などが決められている。さらに犬を飼うことができる区域を制限と抑制、農村に3分別しており、その区域内ではそれぞれ初年度2000元(制限)、1000元(抑制)、100元(農村)の費用を徴収している。なお次年度からは半額。また公司が警備用などに犬を飼う場合は、別の手続きが必要とされている。さらに1年に1回、防疫注射と年度検査を義務付け、合格した犬に≪上海市犬類免疫証≫を発行するとしている。

 北京では管理規制が上海より厳しく、すでに2003年度から、大型犬や気性の激しい犬の禁止、公共場所への連行禁止、公共交通機関への同乗禁止、エレベーターでは轡をさせラッシュ時をさけること、外出時には必ずヒモで繋ぎ飼い主が持つこと、犬を捨てたり虐待したりしないこと、犬の糞はすぐに始末すること(始末しない場合は、環境破壊として罰金50元)、などというルールが設定されている。たしかにこの規制のおかげか、今回の北京五輪中でも犬害のニュースはなかった。

 中国衛生当局によれば、2007年度上半期(1~6月)で、中国全土での狂犬病による死者は1136人であり、発症者数は世界第2位という不名誉な記録を持っており、爆発的なペットブームにより、感染リスクが拡大することを恐れているという。中国当局が実際に狂犬病の感染リスクを懸念しているのだから、中国一般市民にも、飼い犬のルールをしっかり守って欲しいものである。しかし飼い犬の登録に1000元が必要であり、防疫注射にも1回30~50元が必要とされており、その費用を免れるために“黒戸籍犬”がどんどん増えているのが実状であるという。しかも昨年7月、北京のある女性が犬に咬まれたので、すぐにワクチンを接種したところ、それがすでに製造中止になっていたものであり、ニセモノであった可能性が疑われているという事件も発生している。

 今のところ、狂犬病の大流行の話しは聞かないが、現在のような状況では流行し始めたら止めきれず、中国全土に広がるのに1か月間という研究報告もある。チャイナリスクの中に、中国発狂犬病も入れておかねばならないかもしれない。